リンパ浮腫のこと
1.リンパ浮腫とはどのようなものですか?
リンパ浮腫とは、がんの手術の際にリンパ節郭清を受けた患者さんに起こる可能性がある浮腫(むくみ)を伴う後遺症です。一般的にむくみとは皮膚と筋肉の間の皮下組織に過剰に水分がたまった状態のことをいいます。リンパ節郭清術を受けた場合、そのリンパ節と関連した部位のリンパの流れが悪くなり、むくみを起こすことがあります。これをリンパ浮腫と呼びます。
2.むくみが出る可能性がある部位
乳腺科で腋窩リンパ節郭清術を受けた方
手術を受けた側の上半身(胸・背中・肩・二の腕・肘下・手先)
婦人科・泌尿器科で骨盤内リンパ節郭清術を受けた方
下半身(臍から下の腹部、両下肢、稀に陰部)に左右差を伴う
3.リンパ浮腫とはどのような経過をたどるのでしょうか?
- 手術後から2ヶ月くらいまでは手術を受けた側の上半身または下半身に一時的にむくみが出ることがあります。基本的には自然に改善に向かうことが一般的ですが、2〜3ヶ月を過ぎても、むくみが改善しない場合、主治医に相談、またはかかりつけの医療機関へ受診しましょう。
- リンパ浮腫は徐々に進行します。しかし、蜂窩織炎などの合併症を起こし、急激に症状が進むこともあります。(リンパ浮腫の症状や経過には個人差があります。)特に治療をしなくてもリンパ浮腫の程度が変わらない場合もあれば、手術後数年経ってリンパ浮腫を発症することもあります。リンパ浮腫の程度に関わらず、気になることがある時には、まず主治医やかかりけ医療機関にリンパ浮腫について診察を受けたい事を相談してみましょう。
4.リンパ浮腫の治療
- 弾性着衣(または包帯)による圧迫療法について
圧迫療法には、包帯と着圧のあるストッキングやスリーブなどを用います。むくみの状態に合わせて、サイズと着圧の合ったものを選び、状態に応じて調整していきます。
- 運動について
リンパ浮腫発症の有無に関わらず、運動習慣をもつことは大切です。無理をしてやり過ぎると疲労につながりますが、適度な運動はリンパ浮腫発症のリスクとされる筋力低下や体重増加の予防にもなります。体重増加と浮腫の悪化は関連していると考えられています。現在の体重から極端に増えないようにしましょう。運動については、主治医と相談をしながら、ご自身が物足りないと感じる程度から始めてみるとよいでしょう。また、運動中は弾性着衣等を着用しての運動をお勧めしています。
- リンパドレナージについて
皮膚に直接触れてリンパ管の働きを促すマッサージのようなものです。主には、 むくみが強く硬さを伴う皮膚状態の方の治療にとりいれることで、皮膚を少しでも柔らかくさせ、リンパのうっ滞を軽減させる目的で行っています。
また、リンパ浮腫発症前のリンパドレナージの予防効果については個人差があるため、リンパドレナージを毎日行わなければならないということではありません。今までの生活習慣の中でマッサージをされていた場合は、ご自身が心地よいと感じる方法でやっていただければ問題ありません。
- 皮膚・爪のケアについて
むくむ可能性のある範囲の皮膚(アトピー、水虫などの皮膚の持病)や爪の病気やトラブルを予防・治療を行う事が大切です。また、保湿剤などを使用し皮膚の保湿と保護を行うことや、皮膚の観察を行います。ケガをした場合は、傷口から細菌が入らないように患部を水で洗って清潔にしましょう。虫刺されに関しては、虫除けスプレーを用いたり、刺された時は痒み止めを使用するのも良いでしょう。蚊に刺されてもリンパ浮腫が悪化する事はありませんが、掻き壊して傷を作らないようにしましょう。また長時間炎天下の日に屋外で過ごす場合は、日焼け止めを使用するなど対策をとりましょう。
- 蜂窩織炎(ホウカシキエン)について
蜂窩織炎はリンパ浮腫の方に起こりやすい合併症であると同時に、リンパ浮腫を発症するきっかけとなることもあります。主には細菌による感染症が原因ですが、 具体的な原因が特定できず、 過度の疲労で起こることもあります。むくむ可能性のある範囲の皮膚の赤み、腫れ、熱感、発疹などを感じた場合、リンパ浮腫の合併症である蜂窩織炎が疑われます。
このような症状にいくつか当てはまり、蜂窩織炎の症状を疑う場合は、主治医、またはかかりつけの医療機関に相談しましょう。
5.リンパ浮腫に対する手術について
形成外科で手術適応があると判断された場合に実施します。リンパの流れが悪い所のリンパ管を静脈につなげてバイパスを作ることで、リンパの流れを改善するという方法です。
また、重症化したリンパ浮腫については、健康なリンパ管が失われていることも多いため、リンパ節移植という方法を取られることもあります。
主治医やかかりつけ医、形成外科医に相談してみましょう。
参考情報